犬が甘噛みする理由

子犬 甘噛み
そもそもの話ですが、犬は「噛みたい」という欲求を持っています。これは犬の狩猟本能によるところが大きいといわれています。野生では、獲物を追い、噛みついて仕留めることで生き抜いてきました。動くものによく反応する、逃げるものを追いかける、というのもまさに狩猟本能によるものです。

犬は「噛みたい」生き物だ、ということをまずは前提として認識する必要があります。そのうえで、なぜ犬が甘噛みするのか理由を探っていきましょう。

甘えている

飼い主さんへの愛情表現としての甘噛みで、母犬と過ごしていた時期には母犬に対してもしていた行動です。

赤ちゃんがおっぱいを吸うように、飼い主さんの指などを噛んだり吸ったりするのが特徴で、毛繕いのときのように前歯だけで軽くカジカジすることもあります。
とくに月齢の低い子犬によく見られます。

遊んでいる

子犬は本来、きょうだい同士で噛みあって遊びます。
赤ちゃんのうちに、母犬やきょうだい犬たちと離れて飼い主さんとの生活をはじめるため、遊びの一環として噛むことはごく自然なことなのです。

歯がかゆい

一般的に子犬の歯は、生後4~6カ月ごろから生え変わりはじめ、1歳ころには永久歯になります。
この時期は歯がかゆかったり口の中に違和感があったりするので、それをまぎらわそうと何かを噛みます。
噛むことが増えたら、歯の生え変わりのサインかもしれません。

好奇心にかられている

月齢の低めな子犬はとくに見るもの聞くものが目新しく、好奇心旺盛です。
口に入れて、味や噛み心地、食べられるか食べられないか、噛んだら楽しいことが起こるかなどを確かめます。
飼い主さんの手や足だけでなく、家具の角や洋服、電気コード、スリッパなどをガジガジ噛むこともあるでしょう。

手や足をおもちゃと思っている

目の前で動く手や足は犬にとっては魅力的なものです。
きっかけは甘えであったり、単純に動くものを追うという犬としての本能であったりとさまざまですが、痛くないからといって噛ませ続けていると次第に「噛んでいいもの」と学習していきます。

また叱るつもりで「痛~い!」「ダメでしょ!」などの大きなリアクションを返すことで、逆に飼い主さんが反応してくれた」と学習し、構ってほしいときに噛むようになるケースは多いです。

退屈している

留守番が長かったり、散歩や運動時間が短かったりとさまざまなことが原因で、犬が体力や暇を持て余しているときにする甘噛みです。
関心を自分に向けさせるために、飼い主さんの手や足を直接噛んでくるほか、近くにある家具やトイレシートなどを噛むことも。

飼い主さんへの直接の噛みでない場合、単純に退屈しのぎで噛んでいる場合もありますが、家具などを噛むことで、結果的に飼い主さんが来てくれる(関心を自分に向けてくれる)と学習している可能性もあります。

不安やストレスを感じている

慣れない留守番や来客などの環境変化、また飼い主さんとのコミュニケーションのすれ違いなどに不安やストレスを感じ、それを解消するために噛んでくるというケースもあります。

自分の手足やしっぽを噛んでしまうケースもあるので注意が必要です。

犬の甘噛みのしつけ方

子犬 しつけ
場合によっては悪化してしまうこともある甘噛み。
しかし本能による行動であったりや成長過程の一つでもあったりすることから、厳しく禁止してしまうのではなく、自然に甘噛みしなくなるように誘導するのが理想です。

ここでは、愛犬が徐々に甘噛みをしなくなる方法をご紹介します。

甘噛みのしつけ1.環境づくり

まずは、噛まれて困るものは極力、犬の届かないところへ片付けましょう。
靴や靴下、スリッパ、リモコン、タオル、ファスナーやひもがついた服など、意外とたくさんあるはずです。
トイレシート、コンセントやコード類、家具の足などは、いたずら防止のカバーや保護シートを活用するほか、柵やゲートを設けて犬が物理的に行けないようにするのも有効です。

ひらひらした装飾やひもが付いている服などは、動くものを追いかける犬の本能を刺激しやすいため、そのような服を着ることを控えるのも対策になるでしょう。

甘噛みのしつけ2.一緒に遊ぶ

体力や暇を持て余していると、甘噛みの頻度や強さは増していきます。たっぷり遊んで体力を発散させれば、疲れて寝てくれるようになるはずです。運動欲求を解消してあげることは、ある意味一番の対策といえます。

ここで重要なのは「噛んでくるから遊んであげる」としないこと。要求に応えることになってしまい、「噛めば遊んでくれるんだ」という学習につながるため注意が必要です。

引っ張りっこやボール遊びのほか、頭を使うノーズワークもおすすめです。動くものを追いかけたり、嗅覚を使ったり、噛んで引っ張り合ったりする遊びは、狩猟欲求を満たしてくれます。

遊ぶときは人の手を噛ませないようにしましょう。たとえばロープの引っ張り合いで手に歯が当たることが多いなら、長めのロープで遊ぶなどの工夫が必要です。

また、おもちゃ類は誤飲防止のために出しっぱなしにせず、遊び終わったら犬が届かない場所へ片付けましょう。

甘噛みのしつけ3.噛まれたら相手することをやめる

もし相手をしていて噛まれたら、その瞬間相手することをやめましょう。
無言で目線も合わさないようにするとさらに効果的です。もしも、しつこい場合は、背を向けてその場を立ち去ります(1と2の対策をとり、飼い主さんも手を噛まれないよう配慮していることが前提です)。

部屋を立ち去った場合は、基本的に数秒から数十秒以内で部屋に戻って大丈夫です。犬の短期記憶は数秒から数十秒といわれており、必要以上に長い間離れても「なぜ戻ってこないのか」を忘れてしまうためです。
ただし、吠えたりドアを前足でカリカリしたりと、明らかに興奮しているようであれば、クールダウンしてから戻るようにしましょう。
興奮しているときに戻ってしまうと、「吠えたりドアを引っ掻いたりすれば戻ってきてくれる」と学習してしまう恐れがあります。

部屋に入る際は何事もなかったかのように淡々と入りましょう。再び甘噛みをしてきたら、即座に相手をやめる、部屋を出るなどを繰り返します。

これを根気強く繰り返し、噛んだら飼い主さんが相手をしてくれなくなる、楽しかった時間が終わってしまう、と覚えてもらうようにしましょう。

ワンルームの場合は仕切りを設けると〇

鈴木 知之先生

無視をしたり、背を向けたりすることも一定の効果はあると思いますが、なかにはしつこく噛み続ける子もおり、効果に個体差はあります。

ワンルームで別の部屋に移動できない場合は、柵を設けるなど、犬が動けるスペースを区切り、甘噛みしてきたら、柵の外に出るといった方法がおすすめです。

甘噛みのしつけ4.噛みたい欲求を満たしてくれるおもちゃを与える

噛まれたら困るものを手の届かないところへ片付けたうえで、構ってあげられないときは、一人遊び用に噛んでもよいおもちゃを与え、噛みたい欲求をきちんと満たしてあげましょう。

ぬいぐるみやロープは破いて飲み込んでしまうことがあるので、ゴム製などの丈夫なおもちゃがおすすめです。犬が飲み込めない大きさのものを選びましょう。

そもそも犬は「噛みたい」生き物なので、噛むこと自体を否定するのではなく、「噛んでよいものを与える」という考え方はとても重要です。

噛まれたときにやってはいけないこと

レッドカードを出す人
噛まれたときにやってはいけないこと、やらないほうがいいことがあります。

大きなリアクションをする

もし甘噛みされたら、極力「痛~い!」などの大きなリアクションをすることは避けましょう。

構ってほしくて噛んだとしたら「反応してくれた=構ってくれた」という学習につながったり、「噛むと飼い主さんが喜んでくれている」という勘違いが起きたりします。

口の中に手を押し込んだり、口を押さえて叱ったりする

噛むのをやめさせようと犬の口の中に手を押し込んだり、口を押さえたりして叱ると、人の手を怖がるようになってしまいます。また、反抗して強く噛みついてくるなど関係性を悪化させる原因にもなります。

ケージやハウスに閉じ込める

本来、誰からも邪魔されずに安心して過ごせる、居心地のよい場所です。そこを「お仕置き部屋」にしてしまうと、寝るときや留守番のときに入るのを嫌がるようになってしまいます。

犬の甘噛み予防&防止グッズ

犬 おもちゃ
甘噛みを予防し、自然になくしていくお役立ちグッズを紹介します。

ロープのおもちゃ

引っ張りっこ遊びに最適なロープのおもちゃ。
飼い主さん用の持ち手付き、ボール付き、フリスビー状など、さまざまな形や素材でできているものがあります。ロープの太さや長さのバリエーションも豊富です。

うっかり飼い主さんを噛むことなく、引っ張りっこができる形状や長さのあるものがおすすめです。

コング

ゴム素材のほどよい硬さと弾力性があり、中におやつが入れられるようになっている知育おもちゃです。
家事や留守番などで長く構ってあげられないようなときにおすすめです。
コングは子犬用などサイズ展開や種類が豊富なので、愛犬の好みに合わせて選んでください。

コングは難易度の調整がカギ!

鈴木 知之先生

普段食べているドライフードや小さめのおやつをコングに入れるとき、ただ入れただけではすぐにバラバラと出てきてしまいます。コングが愛犬にとって、魅力的なおもちゃになるための最大のポイントは「難易度の調整」です。

難易度の調整は、専用のコングペーストやふやかしたフード、大きめのおやつ等を使い、詰め方を工夫することでおこないます。愛犬の様子を見ながら少しずつ難易度を上げるのがコツです。
難易度をうまく調整してあげると、「おやつが出てくるにはどうしたらいいか」を犬自身が楽しみながら考えていくようになっていきます。

初期は「コングからはいいものが出てくる!」と愛犬にしっかり認識してもらうために、比較的簡単におやつが出てくるようにしましょう。
一番最初にコングを使うときは、念のためドライフードや小さめのおやつのみを少量入れて様子を見るとよいです。グラグラ動くコングに戸惑ってしまう子もいるため、そのような場合は、動かないように飼い主さんが持ってあげるなどのサポートをしてあげましょう。
慣れてきたら、ペーストをコングの内壁に軽く塗った後、おやつをパラパラすればペーストにおやつがくっついて少し難易度が上がります。

簡単に取り出せる小さなおやつを入れた後に、ペーストやふやかしたフード、大きめのおやつ等を詰めるとふたのような役割になり、さらに難易度は上がります。大きめのおやつは、コングを押しつぶして間口を広げると詰めやすくなります。
「おやつ→ふた→おやつ→ふた・・・」というように、コング内でミルフィーユ状に何層も重ねると、長い間夢中になってくれます。
詰める量によっても難易度は変わるため、飼い主さんも楽しみながら詰め方を工夫していきましょう。

ビターアップル

りんごの皮からとれる天然の苦味成分が配合されたしつけ用スプレーで、甘噛みをされたくないところに吹きかけて使います。
効果には個体差がありますが、天然成分で舐めても犬に害はないため、安心して使用できます。

保護カバーなどと併用するのもおすすめです。

ドッグトレーナーに聞いた! 犬の甘噛みについてのQ&A

甘噛みは子犬の時期だけでしょ? 放っておいても自然にしなくなるのでは?
甘噛みは、いろんな理由が複合していくことがほとんどで、「いつまでに治まる」ということが一概には言いづらいというのが正直なところです。

たとえば、最初は「好奇心」で甘噛みをしはじめたとします。
それが徐々に、飼い主さんの反応を見て「手足をおもちゃと思う」ように変化。
そうこうしているうちに、今度は歯の生え変わり時期となり、甘噛みの頻度が増え、そして、噛んだときの飼い主さんの対応から「噛んだら反応してくれた」と学習し、甘噛みが長期化・・・・・・。

こうなると甘噛みの理由自体の特定は難しく、学習の積み重ねも相まって、成犬になれば治まるとは言い切れません。

そのうち治まるだろうと放置せず、子犬のころからしっかりと対策をおこない、自然に治まるようにうまく誘導しましょう。
甘噛みをされたので、ほかの部屋に移動しようとすると、後ろをついてくる。それを無視してもいい?
そのまま無視して部屋を出るようにしましょう。
ついてくるからといって構ってしまうと、「噛んだら飼い主さんが相手をしてくれなくなる」という学習につながりにくくなります。

まとめ

子犬 人 笑顔
甘噛みはある意味、正常な成長過程のひとつです。そのため、噛むこと自体を禁止したり叱ったりするのではなく、噛む原因を考えてあらかじめ予防し、おもちゃなどで噛みたい欲求を満たすようにすることが大切です。
個体差はありますが、適切な対応をすれば長引くことなく、1歳を過ぎたころにはだいぶ落ち着いてくることがほとんどです。
犬の習性を理解し、落ち着いて対応していきましょう。